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人も馬も、経験と、学びの舞台で躍動【競馬マスターズ 坂田博昭】

門別 名古屋

2024年08月13日競馬マスターズ

 ブロードキャスターの坂田博昭です。今週は2つの競馬場から。

 今年も、ヤングジョッキーズシリーズが始まりました。今年最初のトライアルラウンドの舞台は門別競馬場。(取材日:8月7日水曜日)

 レースが始まる前の昼一番。このような青い空が広がりました。おひさまが出ると、日差しは暑い。そして、今年の北海道は蒸し暑い。「北海道ではない夏らしい陽気」のなか、一日が始まりました。

 今年デビュー、ヤングジョッキーズシリーズ初出場のジョッキーに、話を聞いてみました。

  藤田 凌駕(ふじた りょうが)騎手 18歳 ホッカイドウ競馬 小野望厩舎所属。今年4月にデビューして、先週までに6勝を挙げています。

「(ヤングジョッキーズシリーズは)楽しみではあるが緊張しますね。」

 まず、そんな風に今日一日を迎える心持ちを、話しました。

「他場の騎手の乗り方とか、レースの形。それぞれの乗り方があるはずですよね。だから、いつも経験しているのとは違うレースになるのだろうなと思っています。」

 いま、どんなことを考えてレースに臨んでいるのだろうか。

「勿論、勝つことも大切ですし、勝つだけの力があると思える馬は勝たせることを第一に考えていかなければいけません。でも、全ての馬がそうではないですから。」

 冷静に自身と、周囲を見極めようとする気持ちが感じられます。

「いま今回、どういう走りを馬にさせるべきか、いまどういうことが出来ればいいのかっていう『目標』のようなものをクリアさせることを意識しますね。先々のことも見据えながら乗ることが大切だと思ってやっています。」

「馬にとっては、門別だけでおわるわけではないので。」

 この言葉は胸にしみました。彼の乗り方の話、というよりも、競馬と競走馬を巡る「真実」。門別にたまたま在厩している間の経験が、次にどう生きるか、ということまで考えるというのは、恐らく所属する小野望厩舎全体で考えられていることなのでしょう。いまのところ彼の活躍に派手さはありません。しかし、ひと鞍ごとに馬に対するどんなことを考えて乗っているのか、乗ってきたのか。話を聞いて、彼の仕事ぶりにとてもおおきな興味が湧いてきました。

 まだまだ、彼の挑戦は始まったばかり。是非ご注目ください!

 もう一人、JRAからも今年デビューの新人が来ていました。

長浜 鴻緒(ながはま こお)騎手 18歳 JRA美浦 根本康広厩舎所属。ここにきて勝ち鞍を伸ばし、デビューからこれまでに11勝を挙げています。

「まず安全にレースして帰ってくること。」

 インタビューで今日の意気込みを聞いたところ、これが第一声。心構えとして、強く印象に残る言葉でした。

「普段は、ベテランの先輩たちにうまくやられてしまうことも多いのですが、今回は年の近い人たちが集まりますから、いかに考えて乗るかが大切だと思います。流れや隊列の出来方が違ってくると思うので、積極的に、上手く回ってきたいですね。」

 その普段のレースでは、どんなことを考えているのだろう。

「仕掛けのタイミング、ですね。減量があると思って仕掛けが早くなりがちな面があるのですが、そこは考えて。あとは位置取り。その馬ごとにベストの流れや位置取りがあるはずなので、そういうことを考えて乗っています。」

 とかく見る側も、「減量あるんだから、行けよ」的な(苦笑)ことを思ってしまうこともしばしば。しかしここでもあくまで「馬優先」「馬があっての騎乗スタイル」という感じ方考え方が透けて見えます。

 何人もの騎手を育て上げた根本康広調教師が、定年を間近に控え自ら「最後の弟子」と語り楽しみにしている彼。根本調教師からは「細かい技術的なことよりも、気持ち的なことをよく始動される」そうです。その内容は企業秘密だとのこと。これからどんな風に、彼の騎乗振りに現れるでしょうか。こちらも楽しみでなりません。

 7レース発売中に行われた、騎手紹介イベントの集合写真。実は徐々に空は雲に覆われてきて、この時点ではもう青空はなし。イベントが終わってすぐに、結構な量の雨が降り始めました。それも、レース展開や思惑に、影響があったかな……。

9レースで行われた第1戦。勝ったのは、今ご紹介したJRAの長浜鴻緒騎手

  ピエールオレゴンで、見事逃げ切り勝ち!

11レースの第2戦は、この大会らしいハイペースの先行馬総崩れの展開。勝ったのは大井の>木澤奨騎手でした。

  コパノキャスター。豪快な追い込み勝ち。ゴールの瞬間、左手で大きく馬の首筋を叩いて、馬をねぎらいつつ勝利の喜びを表現していました。

 この表情! 久しぶりの勝利の喜び。

 この日の詳報は、WEBハロンのリポートで書かせていただきましたので、そちらもご覧下さい。

 翌日8月8日木曜日。名古屋競馬場にも行ってきました。

 日差しは強く、普通に暑かったんですが…土古の旧競馬場と違い、海に近い弥富は風が吹いて過ごしやすい感じ。空気も北海道と違いカラッとしていますから、日陰にいれば一日過ごすこともそれほど苦にはならない感じでした。

この日のメインレースは、2歳馬の準重賞・若駒盃。

 ※ オッズは馬券発売中のもので、最終オッズではありません

まだキャリアも浅く、完成度としてもこれからという馬たちですが、頭数も揃って興味深いレースになりました。

 勝ったのは、榎屋充厩舎のケイズレーヴでした。新馬勝ちの後、競走除外を挟んでこれでデビューから2連勝となりました。

 他の馬より現状では背が低くて小柄な馬なんですけれども……動きに活発さというか、躍動感があって、見ていて本当に小気味いい走りをする馬。「レースに行けば」本当にいい走りでした。

  木之前葵騎手。ホッとしたような表情で上がって来ました。

「経験すればどんどん覚えていく、とても賢い馬なんです。」

……レース後、そう話したあとにつづきがありました。

「いいことも、悪いことも覚えてしまうんですけど。」

 何せ、前回ゲートに入らず走ることすら出来なかった馬。馬のこと、そして競馬って、本当に難しい。ダビスタとかのゲームと、リアルの競馬とは違うんです。

「(1500m戦で)初めての発走地点に来たら、馬が気づいて『こんなところにゲートがある~』ってなってました……」

 これだけ走れるのだから……ゲートも、大丈夫なんだよ、って早く馬が気づいてくれないかな。

  榎屋充調教師は、この笑顔。本当に嬉しそうでした。2着のロックマジェスティとで、管理場がワンツー。榎屋厩舎には名古屋生え抜きでデビューさせる多くの2歳馬が早い時期から入っていて、2歳馬戦の序盤から目が離せない存在です。

 これから、例えば門別から完成度の高い馬が転入してくれば、名古屋デビューの馬たちにとってはまた厳しい戦いが続いていくことでしょう。それでも、こうして早い段階から馬を育てて行く、ということを続けていけば、いずれ少しずつでも追いついていく。やらなければ、追いつくことはないんです。これもひとつの挑戦。このあとの名古屋デビューの馬たちが、どれだけやれるか。今年、そしてまた来年と、興味を持って追い掛けて行きたいです。

 来週は、笠松からお送りします。